夢の終わりに

第 16 話


ルルーシュのそっくりさんが襲われていた現場は、近隣住人の目にも入り、誰かの通報でやってきた地元の警察に男たちは連行された。扉を蹴り壊してしまったことで警察に連れて行かれそうになったが、持ち主は友人が連れ込まれたのだから仕方のない事だし、犯罪に使われずにすんだ。扉はあの男たちに弁償させると言い、スザクも俺もすぐに開放された。
あのぐらい自分一人で対処できたとルルーシュは言うが、どう考えても動揺しているし顔色が悪い。あの人数相手にこのひょろっこいルルーシュが対処できたとはとても思えないが、あのルルーシュと同じくプライドが高そうだからそこは突っ込まなかった。
宿を探し歩いてたら見つけたと話をしたら、「いらない世話とはいえ助けてもらったからな」と、ルルーシュは自分が泊まっている宿に俺たちを招いてくれた。この町には鉄道も通っており、それに乗ってやってきたのだという。船で対岸に行く予定だったが、嵐が来る事を知って、増水した時の事も考え1週間分予約したというから、身なりから解っていたがかなりの金もちだ。いいホテルから身なりがよく金を持っていそうな美人が出て来たから、ここで足止めを食い気の立っていた男たちに襲われたんだなと理解した。
そんな理由で招かれたのはかなりランクの高いホテルで、部屋はツイン。ベッドは二つしかないから、二人仲良く1つを使うか、床に寝るかは話あってくれと言われた。それでも有難い話だし、二人分の追加料金までお礼だと言って払ってくれたしで、10代の子供に頭の上がらない状態となってしまった。自分で金は払うと言っても、結果的に無駄だったとはいえ、恩人であることには変わりは無いしお金はある。と言って聞かなかったのだから、俺は悪くない。

「えっと、俺はリヴァル。で、こっちのイケメン好青年がスザク。で、そっちの名前は?」

川の水が引けるまで、いや対岸に行くまでの付き合いになるのだから、名前ぐらい聞くのは大丈夫だろうと思ったが、ルルーシュは警戒するようにこちらを見た後、暫く考え込んだ。まあ、助けてもらったとはいえ見知らぬ人間に名前を名乗るのを躊躇しているのだろう。身なりがいいって事は、育ちがいいって事でもあるから、こんな身元の良く解らないバックパッカー二人を同室に入れるだけでも勇気のいる事だ。
下手をすればあいつらみたいに襲ってくる可能性もあるし、金品を盗みだしたり、後々名前から住んでいる所を探り出し金の無心をしてきたりと、嫌な想像をすればきりがないだろう。解る、解るぞ。おじさんも変な人に捕まって、追い回された事がある。だから凄く解るぞ。

「あー、べつにさ、本名じゃなくていいんだけど。ほら、少しの間一緒にいるわけだし、呼ぶ名前がないの不便だろ?あ、そうだ。ルルーシュってのはどう?ルルーシュ!」

どうせ偽名を使うなら俺はこいつをそう呼びたいと思い、思い切って言ってみた。俺の言葉にスザクは驚き目を見開いていた。まあそうだよな、裏切りの騎士スザクの名前で苦労しただろうスザクには、何でそんな名前をって思うだろう。解ってるぞ。だけどこんな奇跡、もう無いだろう。二度とないこの瞬間を、俺は楽しみたいんだ。
ルルーシュの方も驚いた後、よりにもよってと言いたげに睨んできた。

「いや、だってほら、茶髪の癖っ毛日本人がスザクなら、黒髪美人のブリタニア人はルルーシュだろ?・・・あー怒ったなら謝る!悪気は無いんだ!」

ぎろりと睨んでくる美人に、あ、これ駄目かもと思い頭を下げて謝る。あーやっぱりあいつらの名前って今でも駄目なんだな、いい名前なのにな。と思っていたら、ぷっと吹き出す声が聞こえた。
頭をあげると、そこには笑いをこらえるルルーシュ。
その反応に、俺もスザクも戸惑った。

「いや、そうか。茶髪の童顔な東洋人がスザクだから、か。成程面白い。いいぞ、俺は今からルルーシュだ。宜しくな、リヴァル、スザク」

くつくつと笑いながらいうので、あーもー驚かせるなよと、俺は息を吐いた。スザクの方は今まで受けた仕打ちの事もあるのだろう、複雑そうな顔でルルーシュを見ていた。これから表でそう呼び合うことで、何かあったらと心配しているのかもしれない。

「おう、宜しくなルルーシュ」
「くくく、それにしても俺があの悪逆皇帝か、ならば俺は今、騎士と文官を手に入れたという事だな?つまりお前たちは俺の奴隷、俺の手足となり、俺の命令に従うわけだ」

そういうと、悪逆皇帝だった頃のあいつが浮かべていた、それはそれは悪そうな笑みを浮かべた。

「うわ、性格悪くない!?」

あまりの内容に思わず苦情を入れる。

「そう褒めるな」

悪逆皇帝にとってはそれも褒め言葉になるのか?わからん。
ルルーシュは、年上相手とは到底思えないような口のきき方だったが、それもまた嬉しかった。だって、まるであの頃に戻ったようだ。
こうして俺は奇妙な連れ二人と出会ったのだ。

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